【最新判例】中国でのOEM生産は、中国商標権者の商標権侵害となり得るのか?  

中国が「世界の工場」と呼ばれるようになり、低いコストと高い生産力が評価され、OEM生産が中国で盛んに行われるようになってから久しい。中国の加工業者に生産委託し、中国にてOEM生産を行い、後にその生産した製品を全量海外へ輸出する場合、中国国内で同一または類似の商標を所有する商標権者の商標権侵害となり得るのか?

全国各地の裁判所での見解の統一がなかなか図れていなく、長らく、企業や商標系事件を取り扱う知財関係者の悩みともなっていた。

2018年4月、中国最高人民法院のとある最新の商標権侵害訴訟の判決((2016)最高法民再339号判決)が中国国内で大きな話題を呼んだ。中国で一般的に言われる「定牌加工」、即ちOEM生産の際の商標権侵害の成否に関する判決である。OEM生産とは、中国にある加工業者が海外の商標権者または商標権使用権者の委託を受け、その要求に従って製品を製造し、その提供する商標を付して、加工した製品のすべての海外の委託者に交付し、海外にある委託者が中国企業に対して加工費を支払いし、生産した製品は中国国内で販売を行わない国際貿易の商行為である。

本件の事の始まりは2013年10月に遡る。江蘇常佳金峰動力機械有限会社(以下において「常佳社」という)がインドネシア向けへ輸出するディーゼルエンジン部品を、中国常州税関が差し押さえたのだ。その理由は、製品が上海市柴油機有限公司(以下「上柴社」と省略する)の「東風 DONGFENG」の商標権侵害の疑いによるものだった。後に常州税関は、「現時点、関連規定は不明確であり、国内の行政及び司法機関はOEM生産行為が権利侵害となるかについて統一した意見がないため、税関は前記貨物が商標権の侵害となっているか認定できない。」と調査結果通知書でコメントしながら、差し押さえを解除した。そして2013年12月、上柴社は常佳社が自社の商標権を侵害したとして、常州市中級人民法院に提訴した。

一審裁判所は次のように判決した。「商標の地域性により、上柴社は中国における本件商標の商標専用権を有する。常佳社はインドネシアの商標権者の委託を受け、委託者が提供するインドネシアにおける商標権証に基づいてディーゼルエンジン部材を製造し且つその全量をインドネシアに輸出しているため、OEM生産に当たる。OEM生産過程において、全量を国外にて販売し、中国国内では市場の流通領域に入らないため、その商標を付する行為に中国国内では商標の由来を識別させる機能はなく、そのため商標法上の商標の使用行為とならず、常佳社の行為は上柴社の権利侵害とはならない。」

上柴社はこれを不服として江蘇省高級人民法院に上訴した。本件の背景に、原告被告両者のインドネシアにおける商標権の帰属紛争も絡んでいる。インドネシアにおいてディーゼルエンジンにおける「東風」商標は、1976年に初回登録され、インドネシア商標権者のPT ADI社は、譲渡により合法的に該「東風」商標を所持していた。2006年に、上柴社はこれに対して無効審判を起こしたが、失敗に終わった。後に審決取消訴訟で争い、一審では敗訴、二審では勝訴という結果になった。2008年7月に、上柴社はインドネシアにおいて「東風」商標を登録した。しかしながら、2009年11月、インドネシア最高裁での再審により、上柴社が敗訴し、再びPT ADI社が商標権者になった。

2015年12月、二審裁判所となる江蘇省高級人民法院は二審判決を下し、「権利侵害は成立する」と判断した。判決文では、権利侵害の論理について以下のように言及した。「国内加工業者が販売を目的とせずに、海外依頼人の委託を受け、OEM生産した製品を全量輸出して国内で販売しない場合、国内の加工行為が商標権侵害を構成しないと認定するのがよい。しかしながら、前記不侵害認定をする際に、依然国内企業が海外の委託された付される商標に対して合理的な審査または注意義務を果たしていることを前提とする。まず、国内加工企業は海外の委託人が海外において登録商標権を持っているか否か、または合法的にライセンスされているかについて必要な審査を行う必要があり、合理的注意との義務を果たしていない場合、国内加工企業に過失が存在すると認定し、そのOEM行為は商標権侵害を構成すると認定し、相応の民事責任を負うべきである。また、海外委託者が委託する商標自身に正当性を有しない場合、国内加工企業に対してより高い注意義務を求めるべきと考える。」すなわち、加工企業に対して「合理的注意」の義務を果たすことを求めたのである。「東風」商標は中国において駆名であり、被告は原告と委託者のPT ADI社の間でインドネシアにおいて権利帰属紛争が起きていることを知っていながら、その委託を受け、ディーゼルエンジン及びその部材上に「東風」商標を使用し、合理的注意と回避義務を果たしていないため、上柴社の利益に実質的損害をもたらし、商標専用権を侵害しているとした。併せて、全量をインドネシアへ輸出することにより、中国国内では販売していなく、中国における原告の市場シェアに影響を与えていないため、賠償責任が比較的小さいとされながらも、116750元(約200万円)の損害賠償が命じられた。

被告は、侵害が成立するとの二審判決に対して、最高人民法院に再審を申し立てた。最終的に、本件に対して最高人民法院は、二審判決を覆らせ、以下のように判断した。「商標の本質的属性は識別性または指示性であって、基本機能は商品またはサービスの由来を区別することである。一般的に、由来を識別または区分しないような商標の使用行為は、商品または役務の由来に対して誤認または混同を引き起こして、これにより商標が商品または役務の由来を指示するという機能を影響していなく、商標法上の侵害行為とならない。OEMがよく見られる、合法的な国際貿易の形であることを鑑みれば、常佳社が委託を受ける際に合理的注意義務を果たしていなく、その委託加工行為が上柴社の商標権に対して実質的損傷を与えていると示すような、相反する証拠がある場合を除き、一般的な状況においては前記行為が上柴者の商標権を侵害していると認定すべきではない。」そのため、権利侵害は不成立とした。

【考 察】

OEM生産における商標権侵害の成否の問題について、中国最高裁の考え方としては、2015年の最高人民法院「PRETUL事件」判決後、次のように考えられてきた。「中国市場で販売されず、即ち該標識は中国国内において商標の識別機能を発揮することなく、中国の公衆に混同をもたらす可能性はない。製造において被告が付した標識は、商品の由来を区分する意味も、該商品の由来を識別させる機能も有さず、そのため添付する標識は商標の属性を有しなく、製品上において標識を添付する行為は商標上の使用行為ではない。」商標が識別作用を発揮せず、商標法上の商標使用ではない状況下において、同一または類似の商品上において同一または類似の商標を使用する場合、混同が生じ得るか否かを判断することは、実際の意味を有しないと考えられてきた。即ち、商標法上の使用ではないため、権利侵害が成立しないとの立場だ。OEM生産の全量海外輸出という前提下であれば、付加条件なしに、一律に権利侵害が成立しないとの考え方だ。

そんな中、今回の最高人民法院「東風」判決では、最高人民法院は「PRETUL」判決での考え方を修正したようにとらえられる。OEM生産の全量海外輸出という前提下でも、一律に権利侵害が成立しないのではなく、「合理的注意」を果たせていなく、中国国内の商標権者に「実質的損害」を与えていると示す相反する証拠がある場合、権利侵害が成立する可能性もあるとしたのだ。本件を受け、プラクティス上は、OEM生産業者は「合理的注意」を果たすことが重要となり、受注する際には、委託者が正当に商標権を有していることに対する審査、確認が一層重要になってくると言え、委託者が商標権者ではなく、使用権者の場合は許諾書などの確認も強化することが考えられる。また、中国国内の商標権者の「実質的損害」とならないよう、国内市場における公衆の混同の有無なども検討事項に入ってくる。

OEM発注者側としての日本企業も、「OEM生産は日本への輸出が目的で、中国市場では流通させていないから、中国での商標権を取らなくでも大丈夫だ」と安易に考えるのはやめた方がよろしいかと思われる。

何よりも、中国国内で、自社と「同一または類似の商標を、同一または類似の商品」で登録商標を持っている商標権者を作ってはいけない。

OEM製品についても、思慮深く、確実に、そして早め早めに、しっかりと中国での商標権を取得していただくことを強くお勧めする。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です