【判例速報】アップル社iPhone製品が中国で輸入販売不可へ?
今週、特許権侵害訴訟における仮差止命令により、アップル社iPhone製品が輸入販売不可となったニュースとなった。本文は本件詳細を、知財の目線から解説するものである。
本件裁定を下した裁判所は「福州中級人民法院」であり、地理的には台湾海峡を挟んで台北と向かい合う中国大陸側の地方都市である。しかしながら、裁定を出した地方都市にある中級裁判所であっても、その裁定の効力は中国全土に渡るものであることを、まず説明しておきたい。
本件当事者は原告米国クエルコム社(Qualcomm)、被告アップル社の中国における4つの子会社ら(アップルコンピュータ貿易(上海)有限会社、アップル電子製品商貿(北京)有限会社、アップル貿易(上海)有限会社、アップル電子製品商貿(北京)有限会社福州泰禾支社)である。
本件係争特許はタッチパネル上において写真のサイズを調整するものや、アプリを管理する二件のソフトウェアに係る特許である。本件は2017年11月15日に福州中級人民法院に一審提訴され、被告側のアップル社は2件の特許権について無効審判を請求したものの、2018年5月に2件とも有効的に維持されるとの審決が出ていると伝えられている。
本件特許権侵害差止仮処分は、2018年7月10日にクエルコム側から提起され、裁判所は2018年11月30日に裁定を下した。
原告側の担保として、中国銀行福建省分行は裁判所に担保書面を提出し、原告側クエルコム社に人民元3億元(日本円にして50億弱)を提供することを申し出た。
中国民事訴訟における差止仮処分の根拠は、「中華人民共和国民事訴訟法」100条にある。100条では以下のように規定されている。
「人民法院が当事者一方の行為またはその他の原因により、判決の執行が困難でまたは当事者にその他損害を与え得る事件において、相手当事者の申請により、その裁定に対して保全を行う、一定の行為を行うこと、または一定の行為を禁止するよう裁定を出すことができる。当事者が申請していない場合でも、人民法院は必要な差異に保全措置をとるよう裁定を出すことができる。」
本件裁定の詳細は以下である。
一、アップルコンピュータ貿易(上海)有限会社は直ちに本件特許(ZL201310491586.1)を侵害する侵害品iPhone6s,iPhone6s Plus,iPhone7,iPhone7 Plus,iPhone8,Iphone8 Plus,IphoneX(ただしPEGATRON製造品は除く)の輸入、販売を停止すること。
二、アップル電子製品商貿(北京)有限会社は直ちに本件特許を侵害する侵害品iPhone6s,iPhone6s Plus,iPhone7,iPhone7 Plus,iPhone8,Iphone8 Plus,IphoneX(ただしPEGATRON製造品は除く)の販売、販売の申し出を停止すること。さらにwww.apple.com.cnウェブサイトにおける侵害製品の宣伝広告、販売の申し出、購入リンクなどの情報を削除すること。
三、アップル貿易(上海)有限会社は直ちに本件特許を侵害する侵害品iPhone6s,iPhone6s Plus,iPhone7,iPhone7 Plus,iPhone8,Iphone8 Plus,IphoneX(ただしPEGATRON製造品は除く)の販売、販売の申し出を停止すること。
四、アップル電子製品商貿(北京)有限会社福州泰禾支社)は直ちに本件特許を侵害する侵害品iPhone6s,iPhone6s Plus,iPhone7,iPhone7 Plus,iPhone8,Iphone8 Plus,IphoneX(ただしPEGATRON製造品は除く)の販売、販売の申し出を停止すること。
(※PEGATRONは江蘇省蘇州市にあるASUS子会社である。)
本裁定は、裁定書の送達後直に執行が開始され、裁定の効力は本件判決が効力を生ずる日まで続くこととなる。さらに、仮処分命令の性格上、裁定自体に対して上訴することはできず、裁定に不服の場合は、受領後10日以内に裁定を出した裁判所に対して復議(決定事項に対して再討議を行うこと)を申請することができるが、復議期間中裁定の執行は停止されない。
また、中国国内の一部情報によれば、本件係争特許はiOS 11に係るものであり、iOS12は本件特許侵害事件に関係していなく、現在販売中のiPhoneはiOS12をプレインストールしている製品だとアップル社が主張しているという情報が出ている。また、12月11日午後、アップル社は一部メディアに対し、本件裁定に対して既に裁判所に復議を請求したと言及したとの情報が出ている。
本件は現在進行中である。今後の展開に注目したい。